2008/06/24

『異端の肖像』 澁澤龍彦

 これが書かれた当時には、この中のルドヴィヒ2世も、ジル・ド・レエ候もサン・ジュストもあまり知られていなかったのだろうということが、あとがきを読んでいてわかった。しかし、オカルトブーム後の現代においては、ジル・ド・レエ候も有名になり(なぜなら小学生のころから私は彼を知っていたから)、狂王ルドヴィヒ2世も映画化され(ぜひ見たいので近日中に借りてこようとおもう。予告編だけは見たことがある。主演男優が肖像にそっくりだと思った記憶がある。)、未知の異端はもうこの世の中に残っていないのかもしれないということが残念でならない。澁澤さんがこれを書いたときは多くの洋書を熱中して読みあさって、温めた卵を孵すように、日本の読者に紹介したのだろうとおもうと、そういった未知の世界の発掘はいかに楽しかっただろうとうらやましい気がする。そもそも洋書を読みあされる言語力もないのに大それた話ではあるけれど。
 私がこの中で一番興味をひかれた人物はデカダン少年皇帝、ヘリオガバルスだった。マゾヒスティックで中性的で、宗教的で肉欲的で、人間の自然な狂気の姿という感じが、後世にはこういった人物は俗物化して、ただのマゾ、おかま、狂信、色狂い、になるけれども、この時代においては何か神々しいものを感じさせるのだなと思った。こういうなにか狂気に憑かれた社会のなかでドロドロ生きるのも、案外人間らしくていいのかもしれないなぁ。またマゾヒスト研究の際に読み返したい。

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