2008/06/05

『東西不思議物語』 澁澤龍彦

 東京駅の本屋で、少し広めのスペースをとって澁澤さんの本がリコメンドされてました。
 なんだか面白そうなので買いました。
 どれもこれも微妙なオカルティズムで、黒ミサにしても黒ミサで使われるパンについて焦点を絞って書いてみたり、東西不思議・・・というタイトルどおり、日本にある民話は実は中国にも、ヨーロッパにもあるんだよ・・・みたいな小話的なものを集めたものです。
 澁澤龍彦の書く文章はとても軽くて読みやすい。回顧展に行っても思ったことだけれど、文学を楽しむ姿勢が文章に表れていて、こっちも世界に飲み込まれるような感覚で一冊すぐに読み終われるから不思議です。内容は興味あって、いろいろ発見もあるし、面白いはずなのになかなか進まない本とかが多いのですが、澁澤さんの本はいつもたいてい興味がとてもあるわけではなくてもすぐに没頭してしまいます。「ところがどっこい。。」なんて軽い口調で進む話に思わず車内でにやける私。
 さて、この本で私がとてもほくほくした気分になれたのは、「トラツグミ別名ヌエのこと」という章にトラツグミの声をいつも北鎌倉の円覚寺の裏にある自宅で聞いていると書いてあって、実は私は円覚寺の中で育ったようなものなので、自分が遠い記憶のなかで遊びまわっていた山寺の道を、私が生まれる直前まで澁澤さんは歩いていたのかもしれない・・・と想像したからです。また「天狗と妖霊星のこと」の章にも幼いころ建長寺まで遊びに行って真っ黒なカラス天狗の鉄像に妙な気分を感じたと書いてあったのですが、私も同じくあの高い山にところどころ聳え立つ大きなカラス天狗の険しい表情や不気味さに、まったく同じ気持ちをよく感じていたことを思い出しました。普通の仏像とは違ってなんだか緑黒く、山登りの途中にあって、天気の悪い日なんかには子供心に超現実的な恐怖を覚えました。たかが同じ場所で育っただけではありますが、なんかうれしい、同じ感覚。特にカラス天狗のことは、読んだ瞬間に遠い記憶の底から、小さいころ見上げたカラス天狗のイメージがフゥーっと浮き上がってきて珍しい感覚でした。
 話の内容はどれも他愛ない、日本の昔話が主ですが、どの話もどこで知ったか知らないのに聞き覚えがあるような話ばかりで懐かしい気分で読みました。母が教えてくれたのか、水木しげるの本で読んだのか。思ってみれば水木しげるの妖怪の本が家にあり、内容が面白いのでいつも一人で読んでいた記憶があります。「牡丹灯篭」や柄杓をあげると水を入れてくる海坊主の話もよく読みました。
 しかしなんといってもいろんな文献を相当読んでいるんだな!!といつもびっくりさせられます。とにかく柳田国男の本は読もうと思いました。江戸川乱歩も。ブログのタイトルはエロス文学研究と銘打っていますが、エロスと同じくらいオカルトも好きなのです。タロットとか。
 「女護の島のこと」のなかに男女別に住む島のことが載っていましたが、案外効率のよい結婚制度ができるのではないかと思いました。女子は女子だけのほうがいつも仲良くいられるし、男は男のほうがいいのかもしれない。たまに会いにくる妻への愛情のほうが、常にそばにいるうるさい奥さんへの愛情より深く情熱的になるのでは・・・。
  

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